おうちでできる工夫

「やることを忘れない子」は、環境に合図を置いている

「あとでやる」を覚えておくのが苦手な子には、頭で覚えさせるよりもやる場所に合図を置くほうがうまくいきます。この記事では、その理由と家庭ですぐに試せる工夫の仕方を紹介します。

覚えておく力より、思い出させる仕組み

「宿題のプリントを出してね」「明日は体操服だよ」と何度言っても当日になると忘れている。そんな子でも、ゲームのルールや好きなものの名前はすらすら覚えていることがあります。記憶力そのものが弱いわけではありません。

苦手なのは「あとで、ある場面になったら、これをする」という種類の記憶です。たとえば、玄関に体操服を置いておく、手の甲に「プリント」と書く、ランドセルの上に連絡帳をのせておく。昔から子どもが自然にやってきたこうした工夫は、心理学でいう「展望的記憶」を助ける理にかなった方法です。

展望的記憶とは:「あとでやる」を思い出す力

展望的記憶(プロスペクティブ・メモリー)は、未来にやる予定を、その場面で思い出す記憶です。大きく2種類あります。

  • 出来事がきっかけ

    例
    家に帰ったら、連絡帳を出す
    思い出すきっかけ
    「帰宅」という出来事
  • 時間がきっかけ

    例
    5時になったら、宿題を始める
    思い出すきっかけ
    時計を自分で確かめること

子どもにとって、この記憶はまだ発達の途中です。幼児期から少しずつ育ち、年齢が上がるほどうまくなり、思春期ごろに大人に近づきます。予定を頭の片隅に置きながらまわりに合図がないか気にし続ける必要があり、その両方にワーキングメモリ(作業用の記憶)を使うからです。

そのため、遊びやテレビに注意が向いていると予定は簡単に押し出されます。研究でも、注意を分けながら作業するときのほうが子どもの成績は下がると報告されています。忘れるのは気持ちがたるんでいるからではなく、頭の作業台がいっぱいになっているからと考えるほうが実態に近いです。

「もし〜したら、…する」と決めておく(実装意図)

実装意図とは、「いつ・どこで・何をするか」を「もし〜したら、…する」の形で先に決めておく方法です。「宿題をがんばる」ではなく「おやつを食べ終わったら、ランドセルからプリントを出す」と決めます。

心理学者のゴルヴィッツァーとシーランは、94本の研究をまとめて、この決め方が目標の達成を「中から大」の大きさで助けると報告しました(2006年)。642本を扱った2025年の分析でも効果は確かめられていて、「もし〜したら」の形にしたときや決めたことを口に出して練習したときに効果が大きくなりました。

効く理由は2つあります。決めておいた場面が目に入りやすくなることと、その場面になったら考えなくても体が動きやすくなることです。予定を頭で抱え続けなくてよいので作業用の記憶に余裕ができます。

さらに一歩進めるのが、合図そのものを環境に置くことです。玄関の体操服も、手の甲のメモも「これが目に入ったら、あれをする」というスイッチを通る場所に先回りして置いています。合図を探し続ける必要がなくなるので、子どもが苦手な「気にし続ける」部分をそっくり肩代わりできます。

子ども対象の研究もあります。ドイツの小学6年・中学1年にあたる年齢の子約116人が「もし〜したら」の計画を立てる練習を1回受けたところ、2週間後、宿題やカバンの支度などをこなす様子が別の練習をした子より良くなったと保護者が評価しています。気がそれやすい傾向の強い子ほど効果が大きかったという結果です。

家庭でできる合図の置き方

コツは、子どもが必ず通る場面を「もし」に選び、その場所に合図を物として置くことです。時刻より出来事のほうが、子どもは思い出しやすくなります。

  • 宿題のプリントを出さない

    「もし〜したら、…する」
    手を洗ったら、ランドセルからプリントを出す
    置く合図
    洗面所の前に「プリント」のカード
  • 宿題に取りかかれない

    「もし〜したら、…する」
    おやつのお皿を片づけたら、机に座る
    置く合図
    机の上に、今日の宿題を開いておく
  • 持ち物を忘れる

    「もし〜したら、…する」
    玄関で靴をはいたら、カゴを見る
    置く合図
    前の夜に、靴の上に体操服をのせる
  • 九九の練習が続かない

    「もし〜したら、…する」
    お風呂に入ったら、7の段を1回となえる
    置く合図
    浴室の壁に九九表を貼る

合図を置くときは、次の3つを意識すると続きやすくなります。

  • 子どもと一緒に決める。 親が決めたルールより、本人が選んだ場面のほうが覚えやすくなります。
  • 声に出して一度なぞる。 「手を洗ったら、プリント」と口で言い、実際にその場所でやってみます。
  • 1つずつ増やす。 合図が多すぎると、どれも目に入らなくなります。定着したら合図を外して、次の1つに移ります。

LifeMarginの学習ツールと組み合わせる

「頭で抱えず、外に出しておく」という考え方は、LifeMarginの算数の学習ツールの土台と同じです。予定を思い出すときも、計算の途中を覚えておくときも、子どもの作業用の記憶はすぐにいっぱいになります。

  • 練習を始める合図を決める。 「おやつを食べ終わったら、くくスプリントを1回やる」のように、60秒で終わる短い練習を決まった場面に結びつけます。タブレットをその場所に置いておくのも、合図になります。
  • 計算の途中も外に出す。 さくらんぼ計算や筆算、分数のツールにある「メモだな」は、くり上がりの数や途中の答えを画面に残す場所です。玄関に体操服を置くのと同じように、覚えておくことを頭の外に置きます。
  • 調子の悪い日は手助けを増やす。 疲れている日は、作業用の記憶に余裕がありません。そんな日は🐢ゆっくりを選んで、機械に任せる部分を増やして大丈夫です。
  • 最後はノートに合図を書く。 ツールで慣れたら、紙でもくり上がりの小さな「1」を書く、商をたてたら「かける」と小さくメモする、といった合図を自分で置けるようになることを目指します。

気をつけたいこと

  • 合図に頼るのは「ずる」ではありません。 大人もカレンダーや付箋を使います。合図を自分で置けるようになること自体が、大切な力です。
  • 効果には個人差があります。 紹介した研究の多くは大人や小学校高学年以上が対象で、低学年では親が一緒に合図を確かめる手助けが必要です。
  • うまくいかない日は、合図の場所を見直す。 忘れたのは子どもではなく、合図が目に入らない場所にあっただけかもしれません。

まとめると「忘れないように」と言う代わりに「どこに合図を置こうか」と一緒に考える。それが、子どもの頭に余白をつくるいちばんの近道です。

参考文献

この記事は学習のヒントをまとめたもので、効果を保証するものではありません。